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宇都宮家庭裁判所 昭和40年(家)2120号 審判 1966年12月01日

申立人 小山キミ(仮名)

相手方 松田良一(仮名)

主文

相手方は申立人に対して金一五万円を次のとおり分割して支払わなければならない。

イ  金五万円は昭和四一年一二月三一日限り。

ロ金五万円は昭和四二年七月三一日限り。

ハ  残金五万円は昭和四二年一二月三一日限り。

審判費用は各当事者の負担とする。

理由

本件申立の要旨は申立人は相手方に対し当事者間の離婚による財産分与として金五〇万円を支払えとの審判を求むるものであるが、当事者双方の各陳述、証人海野公平同小山勤吾同松田ヨシエ同川本忠義同海野幾義同本多レイ宇都宮家庭裁判所首席調査官平野才一の調査報告書高根沢町長小林弘美作成にかかる松岡功名義の田畑及び家屋の各所有証明書、当事者双方の各戸籍謄本、松田功の戸籍謄本、松田功の原戸籍の謄本、松田功名儀の田畑山林原野の各登記簿謄本、野田外科医院作成の松田キミ宛の領収書、申立人松田キミ相手方松田良一間の当庁昭和四〇年(家イ)第三二七号夫婦同居協力扶助調停事件記録を総合すれば次の事実が認められる。

申立人小山キミと相手方松田良一は昭和三五年一二月二一日事実上の結婚をなし、昭和三六年一一月四日に正式に婚姻し、同年一二月三日その間に長男弘が出生した。

申立人は相手方と結婚後相手方宅において、相手方及びその両親と共に農業に従事して来た、相手方の父功は昭和三九年一一月一一日六三歳で死亡し、母は家つきの人で当六三歳であるが、両親が老齢なので、農業は主として申立人等夫婦が実際の仕事に従事して来た、申立人と相手方は結婚後半年位は大体円満であつたが、その後の半年位は多少問題が起き始めたがこれといつて大きく取り上げる程のこともなかつた、ところがその後申立人と相手方の母及び相手方との間に日頃の生活や長男弘のこと等でいざこざがおき暴力沙汰にまで発展して申立人は相手方になぐられたりしたため二回位実家へ帰つた。

申立人は昭和三七年九月頃胆石病で○○病院に二ヶ月位入院し、同年一二月に子をおろす手術のためにもしばらく入院しその後も予後が悪くて同病院に入院した、昭和四〇年二月に胆石病が再発して又同病院に一ヶ月位入院し、退院後同じ病気が再発して同年四月に野田病院に一ヶ月位入院したのであるが、それ以前は退院後から次の入院までは大体農事にはげんで来た、ところが相手方は最後の入院中仲人を介して申立人に対し病弱を理由に離婚を申渡し退院後は申立人を相手方の家に入れなかつたので申立人は己むなく病気療養を続けながら実家の世話になつていた。そうして昭和四〇年八月二七日当庁に夫婦同居協力扶助の家事調停を申立てその結果昭和四〇年一一月二四日相手方と調停離婚し、長男弘の親権者を相手方と定め、相手方が引続いてその監護養育することとし、申立人の荷物の引取等のことをきめたが、本件離婚に関する財産分与とか慰藉料については口頭で後日改めて請求してきめることとした。

よつて申立人は昭和四〇年一二月一日相手方に対し本件離婚による財産分与の申立をしたものである。

これについて相手方は最後の医者代四万円(内一万円は申立人の入院中雑費として支払つた、又相手方は申立人より釣銭六〇円を受取つているので実際の医者代の総額は三九、九四〇円)を支払つた際これは医者代でなく離婚するための慰藉料であり即手切金であるとか、或は医者代であるが同時にこれが離婚の手切金であるから最早何等これ以上申立人に金銭を支払う必要はないといつているが、これは到底措信し得なく最後の四万円は純然たる医者代と認められる。然らば次にどの位の金額を相手方は申立人に財産分与として支払うのが妥当であるかについて判断する、先づ相手方は現在田二一、八一八平方メートル(二町二反)畑九九一平方メートル(一反)を事実上耕作する農家で供出米は年一〇〇俵でその代金は六三万円位(昭和四〇年の例)であるがその資産としては父松田功名儀の上記田畑と若干の山林原野(登記簿上)及び家屋即住家二棟で合計建坪一三八・〇一平方メートル(四一坪七合五勺)倉庫兼納屋四九・五八平方メートル(一五坪)であるが父功は昭和三九年一一月一一日死亡して相続が開始したが、いまだ遺産分割は行われていないので、現在父の遺産は相手方(当三八歳)と母及び弟一人姉二人妹一人計六人の共有となつている。

次に相手方は長男弘(当四歳)(昭和三六年一二月三日生)を昭和四〇年一一月二四日当事者間の調停離婚後もその親権者としてその手許にて引続き監護養育している。

又申立人当三三歳は上記の通り病身勝ちとなり再三入院したが、結局相手方はその入院費用を全部支払つた。申立人は相手方と結婚以来病気になる前及び退院後は出来る限り婚家先の農業や家事を手伝つたもので、その期間は三年乃至三年半と認められる。その間に相手方は耕耘機、テレビ、電気冷蔵庫各一台等を買い有線放送も設備をなす等生活向上の傾向が見られる、一方申立人は現在宇都宮市の○○病院に住込みで働いており給料は一ヶ月一万三、〇〇〇円であつて目下貯金二万円位あるが将来は雑貨商を営むことを希望しておるが自立して生活し得るには相当の困難が予想される。以上諸般の事情を勘案して結局相手方が申立人に対し本件離婚による婚姻中の財産の精算申立人の今後の扶養等の意味を含めて財産分与として支払う金額は金一五万円を妥当と考えるが相手方が米作収入を主とする農家であることに鑑みこれを三回に分割して相当の期間をおいて支払わせることが適当であり、なお審判費用については各当事者に負担せしめるを相当と認める。よつて主文のとおり審判をする。

(家事審判官 池田滋)

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